神楽坂 かぐらざか
夏目漱石 『それから』 新潮文庫
「彼は何の故に、斯かる下劣な真似をして、あたかも
驚かされたかの如くに退却したのかを怪しんだ。彼は
暗い小路に立って、世界が今夜に支配されつつある
事を私(ひそ)かに喜んだ。しかも五月雨の重い空気
に鎖(とざ)されて、歩けば歩く程、窒息する様な心持
がした。神楽坂上へ出た時、急に眼がぎらぎらした。
身を包む無数の人と、無数の光が頭を遠慮なく焼いた。
代助は逃げる様に藁店(わらだな)を上った。」
Good Study 良学舎